数学の力

京大生が数学の定理・公式の証明や入試問題の解説をするブログ.

整数辺をもつ60°, 120°三角形


スポンサードリンク

整数辺をもつ60°, 120°三角形

前回の記事で「整数辺をもつ直角三角形」という記事を書きましたが, 今回は辺の長さが整数で, 60°や120°の内角をもつような三角形について考察していきます.

 

辺の長さが整数で, 60°や120°の内角をもつような三角形を知っているでしょうか?

 

60°   では 正三角形や (5, 7, 8) の三角形

120° では (3, 5, 7) の三角形などは有名なので知っているかもしれません.

 

このような三角形の辺の長さを, 直角三角形のときと同じように式で書き下せないかを考えていきます.

 

この記事の中では, 60°三角形や120°三角形とは基本的には辺の長さが全て整数であるものを指します.

 

余弦定理

余弦定理. 

三角形 ABC において, 次式が成り立つ.

\begin{align*}
c^2=a^2+b^2-2ab\cos{C}
\end{align*}

ここで,  a, b, c はそれぞれ頂点 A, B, C と向かい合った辺の長さ.

 

60° や 120°の角を余弦定理の C に対応させて

 \cos{60^\circ}=1/2, \cos{120^\circ}=-1/2 を利用すれば,

60° :  c^2=a^2+b^2-ab

120° :  c^2=a^2+b^2+ab

という式が得られます.

 

楕円上の点を考える

さて, 直角三角形のときは,  c^2=a^2+b^2 という式を円の方程式に対応させて考えました.

今回も同様の手順をとっていきます.

 

 x=a/c, y=b/c とすると, 上の式から

60° :  x^2+y^2-xy=1

120° :  x^2+y^2+xy=1

が得られます.

 

これらの式が xy 平面においてどのような図形を表すかというと, 楕円を 45°回転させたものになります.

x^2+y^2-xy=1

x^2+y^2+xy=1


これらの楕円上の点で, x, y 座標がともに有理数であるような点を見つければよいことが分かります.

ここで,
60°の場合の楕円を  C_1, 120°の場合の楕円を  C_2 としておきます.

どちらも点 A (-1, 0) を通ることが分かります.

 

点Aを通って傾き  p の直線と, 楕円  C_1, C_2 との交点で A と異なる点をそれぞれ  B_1, B_2 とします.  0 < p < 1 のとき, 点  B_1, B_2 の座標は正になります.

 

点(-1, 0) を通って傾き  p の直線は  y=px+p なので,

 x^2+y^2-xy=1 に代入すると,

\begin{align*}
x^2+(px+p)^2-x(px+p)=1
\end{align*}

左辺を展開, 右辺を移項して  x について解くと,

\begin{align*}
x &= \dfrac{1-p^2}{1-p+p^2}\\
y &= \dfrac{p(-p+2)}{1-p+p^2}
\end{align*}

 

よって,

\begin{align*}
B_1\left(\dfrac{1-p^2}{1-p+p^2}, \dfrac{p(-p+2)}{1-p+p^2}\right)
\end{align*}

同様に計算して,

\begin{align*}
B_2\left(\dfrac{1-p^2}{1+p+p^2}, \dfrac{p(p+2)}{1+p+p^2}\right)
\end{align*}

 p有理数であれば,  B_1, B_2 の座標も有理数となる (逆に,  B_1, B_2 の座標が有理数なら, 傾き  p有理数となる) ので,  p=m/n,\,0 < m < n,  m, n は互いに素 とおくと

\begin{align*}
B_1\left(\dfrac{n^2-m^2}{m^2-mn+n^2}, \dfrac{m(-m+2n)}{m^2-mn+n^2}\right)\\
B_2\left(\dfrac{n^2-m^2}{m^2+mn+n^2}, \dfrac{m(m+2n)}{m^2+mn+n^2}\right)
\end{align*}

となります.  B_1, B_2 がそれぞれ  x^2-xy+y^2=1, x^2+xy+y^2=1 上の点であることから,

\begin{align*}
(a, b, c) = (n^2-m^2, m(-m+2n), m^2-mn+n^2)
\end{align*}

 c^2=a^2+b^2-ab を満たすので, 60°の角を持つ三角形の辺の長さになっています.

また,

\begin{align*}
(a, b, c) = (n^2-m^2, m(m+2n), m^2+mn+n^2)
\end{align*}

 c^2=a^2+b^2+ab を満たすので, 120°の角を持つ三角形の辺の長さになっています.

(但し, 今回は直角三角形の場合と異なり,  0 < m < n,  m, nが互いに素の条件だけでは,  a, b, c が互いに素とは限らないです).

 

60°, 120°の角を持つ三角形には同じ長さの辺が

この記事の冒頭に挙げた60°, 120°三角形の例を見ると,

60°   : (5, 7, 8)

120° : (3, 5, 7)

と, 5 と 7 が共通していることが分かります.

 

実はこれは偶然ではありません.

 

上で得られた 60° の三角形の辺の長さにおいて,  n=l+m,  l > 0 で置き換えてみると,

 \left(l(2l+m), m(m+2l), m^2+ml+l^2\right)

となります.

 

後ろの 2 つは 120°三角形と同じ形の式になっていまることが分かります.

このことから, 正三角形でない60°三角形があれば, それと2辺の長さが同じであるような120°三角形も存在することが分かります.

 

(60°三角形 (5, 7, 8) は  m=3, n=1, 120°三角形 (3, 5, 7) は  m=2, n=1)

 

この事実は図形からも明らかで, 120°の三角形に正三角形をくっつけることで, 60°三角形を作ることができます.