数学の力

京大生が数学の定理・公式の証明や入試問題の解説をするブログ.

区分求積法を用いた極限の計算(自作問題1-(4))

問題.

自作問題集の1-(4), 区分求積法を用いた極限の計算の問題の解答, 解説をします.

問題. 

次の極限 (*)はある実数値に収束する. 区分求積法を用いてその値を求めよ. 但し,  aは1でない正の実数とする.

 \displaystyle (*):\lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}}{n(\sqrt[n]{a}-1)}

 

与えられた式の形では, 区分求積法が使えません.

 

区分求積法:

 \displaystyle \lim_{n\to\infty} \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}f\left(\frac{k}{n}\right) = \int_0^1 f(x)dx

 

そこで,  a\neq 1であることを使って区分求積法の使える形に変形します.

 

 

 

 

解答例.

問題文である実数値に収束することが分かっているので,

\begin{align*}
S = \lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}}{n(\sqrt[n]{a}-1)}
\end{align*}

とおく.  a\neq 1なので, 両辺に a-1を掛けて計算すると,

\begin{align*}
(a-1)S &= (a-1)\lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}}{n(\sqrt[n]{a}-1)}\\
&= \lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}(a-1)}{n(\sqrt[n]{a}-1)}\\
&= \lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}}{n}\cdot\left(a^{\frac{n-1}{n}}+a^{\frac{n-2}{n}}+\cdots+1\right)\\
&= \lim_{n\to\infty} \frac{1}{n}\cdot\left(a+a^{\frac{n-1}{n}}+\cdots+a^{\frac{1}{n}}\right)\\
&= \lim_{n\to\infty} \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n} a^{\frac{k}{n}}\\
&= \int_{0}^{1} a^x dx\\
&= \left[\frac{a^x}{\log{a}}\right]_{0}^{1}\\
&= \frac{a-1}{\log{a}}
\end{align*}

よって,

\begin{align*}
S = \frac{1}{\log{a}} = \log_{a}{e}
\end{align*}

 

追記.

今回は問題文の中で収束することが分かっていたので, その値を Sとおいて,  (a-1)倍したものを計算しましたが,

\begin{align*}
\sqrt[n]{a}-1 = \frac{a-1}{a^{\frac{n-1}{n}}+a^{\frac{n-2}{n}}+\cdots+1}
\end{align*}

であることをはじめから用いて,

\begin{align*}
\lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}}{n(\sqrt[n]{a}-1)} = \lim_{n\to\infty} \frac{\sqrt[n]{a}\left(a^{\frac{n-1}{n}}+a^{\frac{n-2}{n}}+\cdots+1\right)}{n(a-1)}
\end{align*}

と変形して解くこともできます.

ラマヌジャンとタクシー数

数学者ラマヌジャン

インドの天才数学者で, ラマヌジャン(1887-1920)という人がいました.

 

彼は他の有名な数学者に比べても飛びぬけて天才だと言われています.

彼は当時の数学の知識はあまりなく, 独学で研究をしていましたが, その短い生涯の中で3254個もの公式を生み出したそうです. さらにすごいところは, その公式の殆どが証明なしに, 直感で思いついたものだということです. 例えば, 彼が発見した公式の一つに

\begin{align*}
\frac{1}{\pi} = \frac{2\sqrt{2}}{99^2}\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(4k)!(1103+26390k)}{(4^k\cdot 99^k\cdot k!)^4}
\end{align*}

というものがありますが, このような複雑な公式を何処から思いつくのかさっぱりわかりませんね. (この公式は現在では証明されて正しいことが分かっているようです).

 

彼は自然数すべてが友達であったともいわれていて, そのことを示す有名な逸話として, 「タクシー数」に関する話が残っています.

タクシー数の逸話

ラマヌジャンはイギリスに渡り研究を続けていましたが, あるとき体調を崩して寝込んでいました. 彼の師匠にあたる数学者ハーディが彼の見舞いに行くときに, 前を走っていた車のナンバーが1729であるのを見て, ハーディ博士は次のように思いました.

 

「1729はなんと無味乾燥な数字だろう. 不吉なことがあるのかもしれない. 」

 

そして, その話をラマヌジャンに話したところ, ラマヌジャンは次のように答えたのです.

 

「そんなことはありませんよ. 1729は2つの立方数(自然数の3乗である数)の和として2通りに表すことのできる最小の自然数ですよ. 」

 

実際,

\begin{align*}
1729 &= 1000+729=10^3+9^3\\
1729 &= 1728+1=12^3+1^3
\end{align*}

のように2通りに表すことができます.  9^3=729 12^3=1728であることを覚えていたとすれば, 1729が立方数の和として2通りに表されることは簡単に気づくかもしれませんが, そのような性質をもつ数の中で最小であることが即座にわかるというのは頭の回転の速さが良く分かります.

この逸話から, 1729はタクシー数と呼ばれています.