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ラグランジュの四平方定理


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ラグランジュ(Lagrange) の四平方定理

以前,三平方の定理の拡張である四平方の定理を紹介しました.(-->四平方定理)

ラグランジュの四平方定理は,定理の名前は同じですが,全く違う内容の定理です.

定理. 全ての自然数は,高々 4 個の平方数の和で表される.つまり, 任意の自然数  n に対して,

\begin{align*}
n = x_1^2+x_2^2+x_3^2+x_4^2
\end{align*}

を満たす整数  (x_1, x_2, x_3, x_4) の組が存在する.

"高々" 4 個の平方数の和なので,2 個, 3 個の平方数の和でもいいですし,それ自身が平方数でも構わないです.4 個よりも少ない平方数の和で表せる場合は, 0^2=0 を加えれば,4 つの平方の和の形にできます.

例を見てみましょう.

\begin{align*}
1 &= 1^2+0^2+0^2+0^2\\
2 &= 1^2+1^2+0^2+0^2\\
3 &= 1^2+1^2+1^2+1^2\\
4 &= 1^2+1^2+1^2+1^2\\
&= 2^2+0^2+0^2+0^2\\
5 &= 2^2+1^2+0^2+0^2\\
7 &= 2^2+1^2+1^2+1^2\\
15 &= 3^2+2^2+1^1+1^1
\end{align*}

7 や 15 は,3 個以下の平方の和では表せません.

また,4 のように,表し方が複数あるものもあります.

自然数  n を高々 4 個の平方数の和として表す方法は,ヤコビの四平方定理
\begin{align*}
r(n) = 8\sum_{4\not\mid \,\,d\mid n}d
\end{align*}
で与えられます.

この式の和の部分は, n の約数のうち,4 の倍数でないものの和をとっています.

例えば, n=4 のとき, r(4)=8(1+2)=24 となります.

実は,この定理では 4 つの数の順番や,正負を変えたものも異なる表し方として数えています.

なので, 4=2^2+0^2+0^2+0^2 に対して,

\begin{align*}
4 &= 2^2+0^2+0^2+0^2 &= (-2)^2+0^2+0^2+0^2\\
&= 0^2+2^2+0^2+0^2 &= 0^2+(-2)^2+0^2+0^2\\
&= 0^2+0^2+2^2+0^2 &= 0^2+0^2+(-2)^2+0^2\\
&= 0^2+0^2+0^2+2^2 &= 0^2+0^2+0^2+(-2)^2
\end{align*}

の 8 通りがあります.

 4=1^2+1^2+1^2+1^2 に対しても 4 つのそれぞれに 1 or -1 の 2 通りあるので,  2^4 = 16 通りの表し方が対応します.

ラグランジュの四平方定理の証明.

まず,4 つの平方数の和で表された数同士の積もまた 4 つの平方数の和で表される,という補題を用意しておきます.
補題1. 

\begin{align*}
(x_1^2+x_2^2+x_3^2+x_4^2)(y_1^2+y_2^2+y_3^2+y_4^2) &= (x_1y_1+x_2y_2+x_3y_3+x_4y_4)^2\\
&\quad + (x_1y_2-x_2y_1+x_3y_4-x_4y_3)^2 \\
&\quad +(x_1y_3-x_3y_1+x_4y_2-x_2y_4)^2\\
&\quad + (x_1y_4-x_4y_1+x_2y_3-x_3y_2)^2
\end{align*}

これは展開すれば確かめられます.

では,ここから証明に入っていきます.

 n=1, 2 のときは,上にも示した通り,

\begin{align*}
1 &= 1^2+0^2+0^2+0^2\\
2 &= 1^2+1^2+0^2+0^2
\end{align*}

なので,定理は成り立ちます.

あとは, n が奇素数(奇数かつ素数)の場合を示すことができれば,全ての自然数についても成り立つことが (補題1. ) からいえます.

そこで,以下では  n が奇素数の場合を証明します.

素数であることが分かりやすいように, n=p とおきます.

 p は奇数で 3 以上なので,  \dfrac{1}{2}(p-1)自然数です.そこで,

\begin{align*}
S &= \{x^2\mid x\in\mathbb{Z}, 0\leqq x\leqq\frac{1}{2}(p-1)\}\\
T &= \{-1-y^2\mid y\in\mathbb{Z}, 0\leqq y\leqq\frac{1}{2}(p-1)\}
\end{align*}

という集合  S, T を考えます.ここで, \mathbb{Z} は整数全体の集合を表しています.

このとき,  x^2\geqq 0, -1-y^2<0 より,  S\cap T=\emptyset なので,

\begin{align*}
\#(S\cap T) = 0
\end{align*}

( S\cap T の要素数がゼロ).

ここで,

 S の任意の 2 つの要素  k^2, l^2 , ( k\neq l) について

k^2\not\equiv l^2\pmod{p}.

 T の任意の 2 つの要素  -1-k^2, -1-l^2 , ( k\neq l) について

-1-k^2\not\equiv -1-l^2\pmod{p}.

が成り立ちます. これは背理法で簡単に示せるので,今回は省略します.

さて,

\begin{align*}
\#(S\cup T) &= \#S+\#T\\
&= \frac{1}{2}(p+1)+\frac{1}{2}(p+1)\\
&= p+1
\end{align*}

なので,鳩ノ巣原理より, p を法として合同であるような, S の要素と  T の要素の組が少なくとも 1 つ存在します.



それらの要素を, X^2\in S, -1-Y^2\in T とすると,

\begin{align*}
X^2&\equiv -1-Y^2\pmod{p}\\
\therefore X^2+Y^2+1^2+0^2&\equiv 0
\end{align*}

よって,X^2+Y^2+1^2+0^2=mp となる整数  m が存在します.

この  m m=1 であれば,この時点で証明できたことになります.



そこで, m>1 の場合を考えます.

 X_1=X, X_2=Y, X_3=1, X_4=0 とおいて,

\begin{align*}
\,-\frac{1}{2}k < Y _ i \leqq\frac{1}{2}k,\quad X _ i\equiv Y _ i\pmod{k} \quad(i=1, 2, 3, 4)
\end{align*}

として  Y_1, Y_2, Y_3, Y_4 を定めると,

\begin{align*}
Y_1^2+Y_2^2+Y_3^2+Y_4^2&\equiv X_1^2+X_2^2+X_3^2+X_4^2\\
&\equiv kp\\
&\equiv 0\pmod{k}
\end{align*}



よって, Y_1^2+Y_2^2+Y_3^2+Y_4^2=k^\prime k となる自然数  k^\prime が存在します.

 \,-\frac{1}{2}k < Y_i \leqq \frac{1}{2} k より, Y_i^2 \leqq \frac{1}{4}k^2 なので,

 Y_1^2+Y_2^2+Y_3^2+Y_4^2\leqq 4\cdot\frac{1}{4}k^2=k^2

より, k^\prime\leqq k となっています.

ここで,  k=k^\prime とすると矛盾が生じることを示していきます.



 X_i について  X_i^2\leqq \{\frac{1}{2}(p-1)\}^2 なので,

\begin{align*}
X_1^2+X_2^2+X_3^2+X_4^2 &\leqq (p-1)^2\\
\therefore kp&< p^2
\end{align*}



両辺  p で割ると, k < p.

よって,( p素数なので)  k p は互いに素となり, kp k^2 では割り切れない.



一方, k^\prime=k となるのは,

Y_1=Y_2=Y_3=Y_4=\frac{1}{2}k

のときで,このとき  X_i\equiv Y_i\pmod{k} であることも考慮すると,

 kp=X_1^2+X_2^2+X_3^2+X_4^2 k^2 の倍数となります.

これは上の事実に矛盾します.



以上より, k^\prime\neq k がいえたので,0 < k^\prime < k.

ここで,2 式

\begin{align*}
kp &= X_1^2+X_2^2+X_3^2+X_4^2\\
k^\prime k &= Y_1^2+Y_2^2+Y_3^2+Y_4^2
\end{align*}

の積を考えると,(補題1.) により,

\begin{align*}
k^2k^\prime p = A_1^2+A_2^2+A_3^2+A_4^2
\end{align*}

となる整数  A_1, A_2, A_3, A_4 が存在します.

 X_i\equiv Y_i\pmod{k}\quad(i=1, 2, 3, 4) を使うと,

A_i\equiv 0\pmod{k}(i=1, 2, 3, 4)

となります.

よって, A_i=kB_i となる整数  B_1, B_2, B_3, B_4 があって,上の式に代入して両辺を  k^2 で割ると

k^\prime p = B_1^2+B_2^2+B_3^2+B_4^2

となります.



この時点で  k^\prime =1 であれば  p が 4 つの平方数の和で表されたことになりますし, k^\prime>1 であれば, k^\prime, B_1, B_2, B_3, B_4 を新しく  k, X_1, X_2, X_3, X_4 と見做して同じ変形をくり返せば,いずれ  k^\prime=1 となります.