数学の力

京大生が数学の定理・公式の証明や入試問題の解説をするブログ.

京大2022年度理系第1問, 文系第1問

問題.

5.4<\log_{4}{2022}<5.5であることを示せ.ただし,0.301<\log_{10}{2}<0.3011であることは用いてよい.


今年の問題も全体的に解く方針が分かりやすいものが多かったように感じます.

\log_{4}{2022}の値の近似値に関する問題です.計算してみると5.4と5.5の間というのが意外とゆるい近似であることがわかります.

京大入試では今回の問題のように対数の値は近似値ではなく範囲で与えられることが多いので,気をつけましょう.

解説.

\begin{align*}
\log_{4}{2022} &= \frac{\log_{2}{2022}}{\log_{2}{4}}\\
&= \frac{1}{2}\log_{2}{2022}
\end{align*}

まず,右の不等号について

\begin{align*}
2022 < 2048 = 2^{11}
\end{align*}

より,

\begin{align*}
\frac{1}{2}\log_{2}{2022} &< \frac{1}{2}\log_{2}{2^{11}}\\
&= \frac{1}{2}\cdot 11\\
&= 5.5
\end{align*}

次に,左の不等号について,

0<\log_{10}{2}<0.3011より

\begin{align*}
\log_{2}{10} &= \frac{1}{\log_{10}{2}}\\
&> \frac{1}{0.3011}\\
&= 3.32\ldots\\
&>3.3
\end{align*}

なので,

\begin{align*}
\frac{1}{2}\log_{2}{2022} &> \frac{1}{2}\log_{2}{2000}\\
&= \frac{1}{2}\log_{2}{2\cdot 10^3}\\
&= \frac{1}{2}(1+3\log_{2}{10})\\
&> \frac{1}{2}(1+3\cdot 3.3)\\
&= 5.45\\
&>5.4
\end{align*}

したがって,

5.4<\log_{4}{2022}<5.5

となる.

追記

上の解説を見るとわかりますが,\log_{4}{n}\,\,(n自然数)は2000< n < 2048のとき5.4<\log_{4}{n}<5.5をみたします.

京大2021年度理系第6問(対偶証明:平均値の定理)

問題.

ーーー→ 2021年度京大理系の他の問題はこちらから
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次の各問に答えよ.
問1  n 2 以上の整数とする. 3^n-2^n素数ならば  n素数であることを示せ.
問2  a 1 より大きい定数とする.微分可能な関数  f(x) f(a)=af(1) を満たすとき,曲線  y=f(x) の接線で原点  (0, 0) を通るものが存在することを示せ.


今年の問題は全体的に解く方針が分かりやすいものが多かったように感じます.


問1 は証明ですが,因数分解を利用して対偶を示せば楽です.

問2 は「微分可能な関数」,や「存在することを示せ」というあたりから平均値の定理を使うことに気がつくことができればOKです.



解説.

問1
この問題は,2以上の自然数  m に対して

 a ^ m - b ^ m =  (a-b) (a ^ {m-1}+a ^ {m-2}b + \cdots + ab ^ {m-2}+b ^ {m-1})

が成り立つことを知っていれば,簡単に対偶を示すことができます. m=2, 3 のときは展開(因数分解)の公式として覚えていると思います. a=b のとき  a^m-b^m=0となるので,剰余の定理から  a-b でくくれることが分かるかと思います.実際に  a-b で割ってみれば右辺の形になることが確かめられます.

それでは,これを用いて問題を解いていきます.


対偶「 n素数でなければ(合成数ならば), 3^n-2^n素数でない」という命題を示すことにします.

 n素数でないとき, n はある 2 つの自然数  p, q\quad(p, q\geqq 2) の積として  n=pq と表せます.このとき,

\begin{align*}
3^n - 2^n &= 3^{pq} - 2^{pq}\\
&= \left(3^p\right)^q - \left(2^p\right)^q\\
&= \left(3^p-2^p\right)\left\{\left(3^p\right)^{q-1}+\left(3^p\right)^{q-2}\cdot 2^p +\cdots 3^p\cdot\left(2^p\right)^{q-2}+\left(2^p\right)^{q-1}\right\}
\end{align*}

となります.

あとは,右辺の  3^p-2^p \left(3^p\right)^{q-1}+\left(3^p\right)^{q-2}\cdot 2^p +\cdots 3^p\cdot\left(2^p\right)^{q-2}+\left(2^p\right)^{q-1} がともに 2 以上であることが言えればいいです.

 3^p-2^p については,再び積の形にして

\begin{align*}
3^p-2^p &= (3-2)\left(3^{p-1}+3^{p-2}\cdot 2+\cdots+3\cdot2^{p-2}+2^{p-1}\right)\\
&\geqq 1\cdot p\\
&\geqq 2
\end{align*}

1行目から2行目の不等式は,各項 1 以上の  p 項の和であることから成り立ちます.

同様に,

\begin{align*}
\left(3^p\right)^{q-1}+\left(3^p\right)^{q-2}\cdot 2^p +\cdots 3^p\cdot\left(2^p\right)^{q-2}+\left(2^p\right)^{q-1} &\geqq q\\
&\geqq 2
\end{align*}

となります.したがって, 3^{pq}-2^{pq} は 2 つの 2 以上の自然数の積で書けるので,素数ではありません.よって,対偶が真なので元の命題も真で,「 3^n-2^n素数ならば  n素数である」ことが言えました.





問2
まずは,「グラフ  y=f(x) の接線で原点  (0, 0) を通るものが存在する」という条件について調べてみます.

 y=f(x) 上の点  (p, f(p)) における接線の方程式は

\begin{align*}
y &= f^\prime(p) (x-p) + f(p)\\
&= f^\prime(p)x+f(p)-pf^\prime(p)
\end{align*}

これが原点  (0, 0) を通るとき, x=0, y=0 を代入すると

\begin{align*}
0 &= f^\prime(p)\cdot 0+f(p)-pf^\prime(p)\\
\therefore f(p) &= pf^\prime(p)
\end{align*}

となります.つまり,

微分可能な関数  f(x) f(a)=af(1) を満たすとき, f(p) = pf^\prime(p) を満たす  p が存在する」ことを示せばいいことがわかります.……( \ast)



記事の冒頭にも書いたように,平均値の定理を使うと予想されるので,平均値の定理を復習しておきましょう.


平均値の定理

区間  [a, b] で連続, (a, b)微分可能な関数  f(x) について,以下を満たす実数  c が存在する.
 a < c < b
 \dfrac{f(b)-f(a)}{b-a} = f^\prime(c)

さて,条件の  f(a) = af(1) は,次のように書き換えることができます.
\begin{align*}
\frac{f(a)}{a} = \frac{f(1)}{1}
\end{align*}

つまり, g(x)=\frac{f(x)}{x} とおくと, g(a) = g(1) が成り立ちます.そこで,この  g(x) について平均値の定理を用いてみましょう.

 f(x)微分可能なので  g(x)=\frac{f(x)}{x}微分可能で,
\begin{align*}
g^\prime(x) &= \frac{xf^\prime(x) - f(x)}{x^2}
\end{align*}

なので,区間  [1, a]平均値の定理を用いると,
 \dfrac{\frac{f(a)}{a}-f(1)}{a-1} = \dfrac{cf^\prime(c)-f(c)}{c^2}
 1 < c < a
を満たす実数  c が存在します.

1つ目の式について, f(a)=af(1) より左辺は 0 なので,
 cf^\prime(c)-f(c)=0
 1 < c < a
を満たす実数  c が存在することになります.

( \ast) から,この  c に対して点  (c, f(c)) における接線が原点を通ることがわかります.