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ウィルソンの定理


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ウィルソンの定理

定理: 2以上の正整数  p素数であることと, 次の合同式が成り立つことは同値です.

\begin{align*}
(p-1)!\equiv-1 \pmod{p}\tag{1}
\end{align*}

合同式が関係する有名な定理の一つです. (合同式についてはこちら. )

 

証明

 p素数なら式(1)が成り立つことの証明は1通り, 逆の証明は2通り紹介します. 前半の証明は分かりにくいかもしれませんが, 対偶を示しています. 逆の証明は,
  1. フェルマーの小定理合同式における剰余の定理を用いる方法.
  2.  1 p-1 を積の剰余が1になる組に分けられることを示す方法.
です.

 (\Leftarrow)

対偶をとって,  p\geqq 2素数でないならば  (p-1)!\equiv -1\pmod{p} が成り立たないことを示します.

[1]  p=4 のとき

\begin{align*}
(4-1)!=6\not\equiv -1 \pmod{4}
\end{align*}

[2]  p\geqq 4 のとき

素数でない  p が次のように素因数分解されたとする.

\begin{align*}
p=p_1^{e_1}\cdot p_2^{e_2}\cdots p_m^{e_m}
\end{align*}

ただし,  m は素因数の個数で, 各  p_i素数,  p_i\neq p_j, i\neq j, 各  e_i は1以上とします. このとき,

\begin{align*}
\frac{p}{p_1} &= p_1^{e_1-1}\cdot p_2^{e_2}\cdots p_m^{e_m}\\
&\geqq p_1^{e_1-1}\\
&\geqq 2^{e_1-1}\\
&\geqq e_1
\end{align*}

但し, 最後の部分では不等式  2^{n-1}\geqq n を用いていますが, これは  n についての数学的帰納法で示されます. 等号がすべて成り立つのは  m=1, p_1=2, e_1=1, 2 のときのみ, つまり  p=2, 4 のときのみなので,  p\geqq4 なら  \displaystyle\frac{p}{p_1}\geqq e_1. 両辺に  p_1 を掛ければ  \displaystyle p\geqq p_1e_1, つまり  p-1 以下に  p_1 の倍数が最低でも  e_1 個は存在する, ということになります. 同様にして,  p_2, \ldots, p_m についてもそれぞれの倍数が  p-1 以下に  e_2, \ldots, e_m 個存在します.
このことから,  p-1 以下の自然数を全て掛け合わせたものが  p_1^{e_1}, p_2^{e_2}, \ldots, p_m^{e_m} で割り切れる, つまり  p で割り切れます. 故に,
\begin{align*}
(p-1)!\equiv 0 \not\equiv -1 \pmod{p}
\end{align*}


 (\Rightarrow)の証明Ⅰ.

 p=2 の場合は代入すれば成り立つことがすぐにわかるので,  p>2 の場合, つまり  p が奇素数の場合を考えます.

 1, 2, \cdots, p-1 p と互いに素であるので, フェルマーの小定理より,
\begin{align*}
1^{p-1}\equiv 2^{p-1}\equiv \cdots\equiv (p-1)^{p-1}\equiv 1\pmod{p}
\end{align*}

最右辺の  1を移項して,

\begin{align*}
1^{p-1}-1\equiv 2^{p-1}-1\equiv\cdots\equiv(p-1)^{p-1}-1\equiv 0
\end{align*}

ここで,  F(x)=x^{p-1}-1 とおくと, 上の式は

\begin{align*}
F(1)\equiv F(2)\equiv\cdots\equiv F(p-1)\equiv 0
\end{align*}

ここで, 合同式における剰余の定理によって, 次のように書ける.

\begin{align*}
F(x)\equiv (x-1)(x-2)\cdots\{x-(p-1)\}
\end{align*}

ここに  x=0 を代入して, また,  F(0)=-1,  p が奇数であることを用いて,

\begin{align}
{-1} &\equiv (-1)\cdot(-2)\cdots\{-(p-1)\}\\
&\equiv (p-1)!
\end{align}

となり示された.

 (\Rightarrow)の証明Ⅱ.

 p素数のとき,  1\leqq k\leqq p-1 を満たす整数  k に対して, 以下の方程式はただ一つの解をもつ.

\begin{align*}
kx\equiv 1\pmod{p} \ (1\leqq x\leqq p-1)
\end{align*}

( \because)  k p と互いに素なので,  k, 2k, \ldots, (p-1)k p で割った余りは  1, 2, \ldots, p-1 と1対1に対応する(フェルマーの小定理の証明Ⅱ参照). これは式(11)の解がただ一つ存在することを意味している.

ここで,  k=1 に対する解は  x=1,  k=p-1 に対する解は  x=p-1 で,  2\leqq k\leqq p-2 に対しては  k^2\not\equiv 1 より解  x\neq k. つまり,  2, 3, \ldots, p-2 p を法としてその積の剰余が1となるような2つずつの組に分けることができる. よって,

\begin{align*}
(p-1)! &\equiv (p-1)\cdot 1^{\frac{p-3}{2}}\cdot 1\\
&\equiv p-1\\
&\equiv -1 \pmod{p}
\end{align*}